D2C事業者の方々とお話をしていると、初回価格の設定に関して相談を受けることがあります。初回無料、初回500円、初回1980円などといった表示を見ることも多いのではないでしょうか。
特に最近は、税込み表記がマストになったこともあり、980円(税込)といった形での表記が目立つようになってきました。
では、D2Cで、サブスクリプションモデルを採用している会社はどのような価格設定をしていったらよいのでしょうか。
Contents
前提
定期通販型のモデルであり、初回だけ割引があり、2回目以降は一定価格で販売。定期購入に関しては初回での解約を認めており、いわゆる定期縛りはない。
市場にすでに競合が存在しており、商品機能だけでは差別化が難しい市場での競争。こうした前提のもと初回価格の設定について考えていく。
まず、価格設定においては2つのポイントがあります。初回価格は無視して2回目以降の売上で売上がでるような設計にしないといけません。
2回目以降の価格は途中から変更することが難しいですので、2回目の価格は不可逆と考えて慎重に決定しないといけません。
一方で初回価格については、変更することもよくあります。そのため、価格設定は雑になりますが、価格設定については変更できるオペレーション体制があるのであれば検証を繰り返して行けば良いと思います。
私の見解を述べる前に、価格を変更してABテストをするポイントについて記していきます。まず、初回に送るものを安くしていく場合、サンプル品を作るかどうかが論点になります。
サンプル品とは、実際に販売する本製品とは異なる少量のものを用意することです。
サンプル品を配布または安価で販売することでトライアルを獲得するマーケティング手法があります。
私も消費財メーカーで働いていたときは、数千万個にのぼるサンプル品を作成し、新聞や、雑誌、オフラインの大規模イベントで配布をしていました。
ある程度の配布先が見込めるのであれば大規模サンプリングは有効であります。一方で、サンプル品を作るとなると、サンプル品用の型を用意して、製造をしないといけないため、余計なコストがかかります。
処方の量が減るのでサンプル品のほうが原価は大きく下がりますが、管理が大変になります。こうした点を踏まえて、それでもサンプル品を作ることにメリットがある場合はサンプル品を作成することをおすすめしています。
初回価格が0円、無料のサンプル送付を行う形で初回の顧客を獲得するのであれば、サンプル品を製造していくべきでしょう。
代表的なのはドモホルンリンクルを展開する再春館製薬です。ドモホルンリンクルは初回無料でサンプル品を希望者に送付しているビジネスを行っております。
幅広い年代のユーザーを獲得し、そこから本製品への購入転換率も比較的高いといわれています。
テレビCMと組み合わせて、サンプル品を配ることで売上につなげている手法です。
引用:ドモホルンリンクル 公式ページより
では、サンプル品を作らない場合はどうなるでしょうか。サンプル品を作らないとなると、本製品を配ることになりますが、商材にもよりますが、配送費込で原価は700~2500円くらいの幅になるので大量にサンプリングするとなると、獲得費も加えると相当なコストになってきます。
サンプル品を作らない場合について少しシミュレーションしてみましょう。
初回500円と初回2980円で販売するときに注目すべき変数は2つです。1人あたりの獲得コスト(CPA:Cost Per ActionまたはCAC: Customer Acquisition Cost)と、継続率です。
500円と2980円の初回価格の場合、500円のほうが獲得コストが安くなるのは容易に想像がつきますよね。
500円にしたほうが、消費者側の心理的ハードルが圧倒的に低いです。もちろん商材にもよりますが、インターネットの購入で500円は多くの人にとっては安く感じます。
一方、2980円だとAmazonなどではいいものが買える価格になってしまうため、人によってはハードルになります。
また、後払いというサービスが普及していますが、後払いの与信枠が500円のほうが通りやすいため、購入確率があがります。後払いは利用できる購入額が決まっているため、その枠を超えているもしくは、未払いの状況になると利用できなくなります。
よって、500円、980円、1980円、2980円などで同じチャネルで獲得コストがどれくらい変わってくるかテストするとよいでしょう。
時には1980円と2980円でも獲得コストが変わらないことがあります。一方、500円と2980円だと獲得コストが大きく変わってきます。
ちなみに初回価格を下げれば下げるほど、アフィリエイターといった成果報酬型の広告運用者には喜ばれます。
そのため、初回価格に応じてアフィリエイターへの支払額を変更することもしばしばあります。
初回価格500円の場合は、10,000円の報酬なのが、初回価格1980円の場合だと8,000円にするといった具合です。
さて、初回価格は安ければ安いほうがいいのではないかという説明になりましたが、そう簡単ではありません。初回価格が安ければ安いほど、2回目の価格の差が大きくなるため2回目以降の価格が割高に感じてしまいます。
初回500円でも、2回目からが8000円になるとその差が大きく感じられます。初回、2980円と8000円でもその差は大きく感じますが、初回500円のときほどは大きく感じられません。
割高感が感じられることで、2回目以降の解約率が大きくなってしまいます。解約率は定期型のD2Cビジネスにおいては重要な指標のため、解約率をできるだけ下げるような努力をしなければいけません。
あまりに安すぎるということで、何でも試してみるが、2回目以降は絶対に買わない人たちに買われる可能性もあります。
消費財メーカーでも、消費者を色々な区分で観察しますが、その店のなか、もしくは店を複数またいでもとにかく一番安い商品を買うという行動をする方は実際にいます。
消費財は趣向がある程度あるため、ブランドで選ばれがちですがそれでも1円でも安いものを求めて行動する人はでてきます。
よくスーパーなどで1円でも安いものを探して他のスーパーまで自転車で移動して探すという主婦がいるのと同じです。
自分の時間をお金換算する方にとっては、移動時間がもったいないので数円のために安いところを探すのは意味ないと思われるかもしれませんが、主婦などで節約することを生きがいにしている方にとっては少しでも安いことは価値です。
そのため、D2Cにおいても安さを優先する方はいます。(D2Cと呼ばれる商品は高いのでドラッグストアで安いものを探している顧客に比べると圧倒的にその数は少ないが)
さて解約率について考えていきます。
解約率については、実際にデータをとるのが早いので、それぞれの価格で解約率をトラッキングしていくのがいいでしょう。
2回目以降の価格が売上に大きなインパクトを残すので、初回価格の差は売上にそこまで大きな影響を及ぼしません。それよりも2回目以降にどれだけ多くの人に、定期購入を続けてもらうほうがインパクトが大きいです。
さて、ここまでABテストをしてみましょうという話をしましたが私個人の見解を述べたいと思います。
初回価格とブランド・ロイヤルティの観点からですが、ブランド・ロイヤルティはマーケットシェアに比例するというダブルジョパディのマーケティングの調査結果があり、そのリサーチによると、とにかく経験購入率を高めることがブランド・ロイヤルティにつながると言われています。よって価格を安くしたら安くするほど買われやすくなりますので、ブランド・ロイヤルティの向上につながります。
ブランド・ロイヤルティだけを考慮すると先程の例では500円もしくは、ドモホルンリンクルのように無料サンプルを送るのが正解です。短期的な売上最大化の観点では必ずしも、ブランド・ロイヤルティを高めればいいというわけではありませんので、このあたりは事業計画によります。
10年スパンでみると、ブランド・ロイヤルティを高めることが重要ですので、ブランド・ロイヤルティを高めることを目的として経験購入率を高める、つまり安い価格で初回の購入を促すのは正しいことになります。
ただし昨今D2Cは資金調達をして時価総額をあげていくことを重視していることもあり、売上最大化を目的とした施策をとっている企業もあります。このことについては否定することは何もありませんので経営者の意思決定によります。
私は大企業などにはまずはブランド・ロイヤルティを高めることを目的とした施策をとることを案内しています。
転売屋対策
ちなみに初回価格500円やもしくは無料サンプリングをすると転売屋が必ずでてきます。主にメルカリにでてきますが、最近メルカリでも著作権侵害を主とした異議申し立てができるようになりましたので、できる限りで対策をしたほうがよいでしょう。
転売屋は転売塾でどの商品を買ったらいいかをアドバイスしていますので気をつけてください。
初回価格は下げていくのは簡単
D2C領域における初回価格についてお話しましたが、初回価格は、下げるのは簡単ですので、高い価格から検証していき、どんどん下げて検証して最適解を求めるのがよいでしょう。
大規模に予算があり、トライアル(経験使用率)に重きを置く場合は、サンプルを配っていくのは現代でも有効な手法です。
もしくは500円などで経験購入率を高めていくことも大事です。
みなさんにとって本内容が役立つことを祈っております。
参照文献
- Ehrenberg, Andrew S.C. , Goodhardt, Gerald J. , and Patrick Barwise, T. (1990), “Double Jeopardy Revisited,” Journal of Marketing, 54 (July), 82–91.
- Chaudhari, Arjun , and Holbrook, Morris B. , (2001), “The Chain of Effects from Brand Trust and Brand Affect to Brand Performance: The Role of Brand Loyalty,” Journal of Marketing, 65(April), 81–93.