キャリア

P&Gをはじめとする外資系消費財メーカーのマーケターは何が強いのか?

P&G出身のマーケターは他社で活躍しており、事業会社のマーケティング部門を中心に活躍しています。

Facebook Japanの代表をつとめ、現在はD2Cをはじめとする事業を展開するMOON-XのCEOである長谷川晋氏や、ロクシタンの日本法人の社長をつとめ、「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」の書籍がヒットした西口一希氏、日本マクドナルドのマーケティング戦略をにない、ファミリーマートのCMOをつとめている足立光氏など名前をあげると数多くのマーケターや経営者を輩出しています。

他にも和田浩子氏や森岡毅氏、音部大輔氏、石谷桂子氏など業界で有名なマーケターは数多くいます。

私も、外資系消費財メーカーのマーケティング部門にて勤務経験があり、P&G出身者とも働いたことがありますので、なぜP&G出身のマーケターが強いかについて同業視点で少し解説していきたいと思います。

P&Gをはじめ外資系消費財メーカーは、部門別採用

まず、P&G出身のマーケターがマーケティング領域が強いのは、最初からマーケティング仕事に従事しているからです。

一般的に外資系の消費財メーカーはジョブローテーションという概念がなく、マーケティング部門に入社したら、マーケティングの仕事しかしません。営業やサプライチェーン、ファイナンス、消費者調査の仕事をすることは基本的にはありません。

そのため、マーケティングに関する専門知識が身につきやすい環境にあります。他部署と関わるため他部署に関する理解は必要ですが、業務経験を積むことはありません。

ただし、消費者調査は部門としてはマーケティング部門と別部門になります。

しかし、プロジェクトをすすめるうえで密接に関わるため消費者調査に関する設計や実行に関しては深い専門知識を有するマーケターも少なくありません。

また、新卒も中途もローテーションという概念ではなく最初からマーケティングを極めたいと思っている人を集めている点に大きな強みがあります。

マーケティング部門内でも商材やビジネスモデルによる違いがあるため、マーケティング部門内でのローテーションはあります。

例えば、国内で販売会社寄りのマーケティング戦略を立案することもあれば、ブランドの本部機能(主にここではアジアの本部機能)が存在する海外に行き、上流の戦略を考えることもあります。

ブランドによっては、海外ではなく日本にオーナーシップがあるものもあるため、ブランドによって本部機能がどこにあるかは異なってきます。

米国に本部機能がある場合は時差が大きいため、日本在住のマーケターは深夜に会議が設定されがちで大変と愚痴をこぼしています。シンガポールや上海に本部機能がある場合は時差もなく働きやすいと言われています。

欧州の場合はアメリカほどではないですが時差(7~9時間差)があるため、夕方から夜に会議が設定されがちです。

日本の大手メーカーには、新卒採用時に配属は決まっておらず、入社後も営業配属であることが多く、営業で成果を出したらマーケティングに異動できるという会社もあります。

マーケティング部門に異動できることがその会社におけるキャリアの成功となっていることがあります。

個人的な意見としては、マーケターになりたいにも関わらず20代の能力的にも伸び盛りで、仕事の量も多くこなせる時期に、マーケティング以外の職種についていることは大きな機会損失だと考えています。

例えば20代のうち1年間だけ営業をすることはキャリア上プラスになることもありますが、マーケティング以外の仕事に多くの時間を使うことは有益なキャリア構築とは言えないでしょう。

本題から逸れてしまったので、話を戻します。

マーケティング部門に権限が与えられている

では、部門別採用のなかでも外資系消費財メーカーのマーケティング部門のマーケターは他社でも活躍できる人材になっているのでしょうか。

それは組織構造にあります。

部門別で組織が別れており部門間の人的交流はないため縦割りのように思われがちですが、意思決定において部門間の大きな対立は思っているよりは少ないです。

意思決定者がマーケティング部門となっているため、マーケティング部門のマーケターがOKかNGかの最終決定者であるため、意思決定が合理化されています。

引用:P&Gジャパン公式ページ

営業の古株が口を挟んできたとしてもマーケティング部門がすすめるといったらそのプロジェクトはすすめることにはなります。

実際のところは、営業の古株の方の意見は役に立つ事が多く、聞き入れて中庸を探ることも多くあります。

ただし、あくまでマーケティング部門が意思決定者であるという認識は社内でとれています。そうした人間関係のコントロールを含めてマーケターは能力を問われてきます。

マーケターは意思決定者であるが故に、意思決定に関わることも多く、成長の機会にあふれています。

意思決定の経験数は成長における重要なポイントだと個人的に考えていますが、意思決定の機会にあふれていることがマーケティング部門の醍醐味です。

最終的にはマーケティング部門に意思決定権があると言いましたが、生産管理、ファイナンス、工場、研究開発、営業など様々な部門を同じ方向にまとめるため、調整力は必要になってくるのでウェットな人間関係は実際にはあります。

1つの会社ではありますが利害関係が別の方向に向いているため、利害関係を調整していくことが重要です。

ときには最大公約数的な意思決定にならず、どこかの部門が割を食ってしまうこともありますが、そうした意思決定を通して経験を積んで優秀なマーケターになっていきます。

マーケティングの専門スキルよりリーダーシップ

冒頭のP&G出身のマーケターがなぜ優秀かという話に戻ると、マーケティングの専門スキル以上にリーダーシップの経験がずば抜けているため、組織が大きい企業においてもビジネスマンとして活躍できる方が多いと考えています。

マーケティングの知識はあるため、知識面での優位性はありますが、知識だけでは組織を動かすことはできません。

マーケターにとってはリーダーシップこそが他者および他社との競争優位性になると考えています。

リーダーシップが身につく経験を1年目からできる環境で仕事ができるというのは大変大きな経験です。

P&G出身者が他社でも活躍できる理由

P&G出身者が他社でも活躍している理由は、今述べたようにリーダーシップにあります。

少し極端な言い方ですが、消費財メーカーも”メーカー”であるため必ずしも全員が自己成長のために働いているのではなく今ある生活を維持したいと思い働かれている方もいらっしゃいます。

こうした方たちを動かす経験をしてきているのがP&Gをはじめとする外資系消費財メーカー出身のマーケターです。

よってどの組織のどんな人が相手でも人の動かし方を心得ていると言えます。正しい比較ではないかもしれませんが、投資銀行で投資銀行部門に勤務していると、ハードワークする同僚や社外の公認会計士、弁護士、コンサルタントと働くことになります。

そのため全員がプロフェッショナルであり、仕事を遂行することが全員にとっての最高の優先順位になります。メーカーは社内で働くといろいろな部門の人と関わるため働くことの目的が違うことも理解する必要があります。

さて、P&Gのマーケティング部門の話に話を戻すと知識に関しても自分だけではなく他者に伝えられる体系化された知識をもっています。

1つの目安ですが10年以上P&Gなどの外資系消費財メーカーで働き、ブランドマネージャー(現在は最初からブランドマネージャーという役職になっているため)以上の役職を経験されている方はマーケティングの体系化された知識をもっているといえます。

特にブランドマネージャーとして数年間の経験があるならば、実行と知識をつなぎこむ経験をしてきているはずです。

外資系企業は、ノウハウの蓄積ができているため、再現性のある成長ができる環境にあります。

良い点ではありませんが、外資系企業の日本支社は、人の出入りが激しく、ノウハウを属人化してしまうと、退職した際に影響がでます。

ノウハウとして体系化されていることで、退職者が出ても会社の知識が伝達されています。

一方でノウハウや知識があるからといって使いこなすには時間がかかります。最低でもブランドマネージャーまでの役職を経験し、ブランド・マネジメント業務を経験してはじめて身につくでしょう。

本だけ読んでできるほどマーケティングの仕事は簡単ではないはずです。

役職の”下駄”に注意

近年、P&Gのみならずですが、下のクラスにもブランドマネージャーという役職になっているためレジュメ上はブランドマネージャーを経験しているように見えます。

しかし、役職名だけがブランドマネージャーになっており、実際はブランドマネジメントの経験はアシスタントレベルでしかないということがあります。

昔と現在とでは役職が違うので、採用する側としてマーケターを採用する際は、役職に惑わされずに、業務経験で判断しましょう。

〇〇責任者と名乗っていても、実際には細分化されたSKUの責任者であって、実際にはブランドの責任者ではないこともあるので気をつけましょう。

P&G出身のマーケターの弱点

P&G出身のマーケターの弱点はなにか?と聞かれることは一度もないのですが、弱点を無理やり考えてみました。

基本的に実行における自分で手を動かす部分の少なさがあります。大企業であるため、大手広告代理店(電通のような超大手広告代理店)が担当してくれるため、実際に手を動かす部分は多くありません。ビジネス的にはそのようにすることが正解です。

ただし、ベンチャーではマーケティング責任者も手を動かすことが求められるため、ベンチャーで必ずしも活躍しないのが現状です。

また、消化予算の少なく、戦略上重要にはならない、デジタルに関しては現状、知識が追いついていないように感じます。

新興のD2Cベンチャーにおいてマーケティング戦略を実行するにはキレイ事では済まない部分も多く、泥臭いデジタルの部分を実行し続けることが重要です。

P&Gをはじめとする大手のメーカーのマーケターを採用する際は、能力について気をつけて採用しないといけません。

一方でテレビCMなどの大型予算の消化については秀でている面も多く参考になります。

〇〇出身ということにとらわれない

有名企業出身だと、盲目的にその情報を信じる人がいます。しかし、他人を盲目的に信じるのは危険であり、自分の目と経験で判断する必要があります。

P&G出身だから、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身だからということで判断してしまうと失敗することもあります。

大学と同じで偏差値が高い大学出身者には優秀な人が確率的に多いだけで、P&G出身だからということだけで判断することは危険です。

冒頭に述べた優秀な人材を多く輩出していることから確率的に優秀な人が多いことは間違いないです。

採用の際の1つの参考にしてみてください。