EC運用

企業はEC事業をなぜするのか?

今やEC(e-commerce)を展開しないメーカーは少なくなってきました。ドラッグストアや百貨店をはじめ、小売りで取り扱っている商品はインターネット通販でも購入できるようになっています。

企業はなぜECに取り組むのでしょうか。理由は企業によってさまざまです。

「競合がしているからECをはじめた。」「コロナ渦において小売りチャネルでの売り上げが大幅に下がったことからECに取り組まないといけなくなった」「ECがチャネルとして成長しているためビジネスのチャンスととらえた」「店舗は採算があわなくなってきた」

などがあるでしょうか。

私自身も新卒で入社した会社で最初に担当した仕事は、E-commerceでした。AmazonやLOHACOでの売り上げ最大化を目的としてキャンペーンを実施しました。

記憶が定かではないですが、1か月に2,000万ほど使っていいからと新卒だった私に予算が渡されプロジェクトがはじまりました。

勤務していた会社は消費財メーカーであり、ドラッグストアが主戦場であったため、ECにはあまり力をいれておりませんでした。そのため新卒でもデジタル(EC)の仕事が任されやすい環境にありました。

私が担当していたブランドでは年間数十億円単位の広告予算があったため、EC上における数千万は少額の予算でした。相対的にECは予算が少ないため、上司たちから細かいチェックを受ける環境にありませんでした。

大企業のなかにも熱心にECを取り組んでいないところがあります。少し話が脱線しますが、なぜECに力を入れていないのでしょうか。

大手企業がECに本気を注げない理由

大企業も当然ECに取り組むべきだということは理解しています。しかし、熱心に取り組めない事情があります。それは既存の小売との関係です。

例えば、消費財メーカーは売上のほとんどは最終的には小売、特にドラッグストアが占めています。主婦の購買行動を考えると納得できると思います。

さて、ドラッグストアとメーカーの間には卸という業態が存在します。

消費財メーカーはマツモトキヨシやサンドラッグといったドラッグストアに対して商品を卸すためにパルタックやあらたといった卸業者が”仲介”してくれているわけです。

卸業者の役割は日本においては重要です。都市部は問題ありませんが、日本の奥地や僻地などは商品を流通させるのが大変ですが卸がいることで日本の田舎のドラッグストアにも商品を配送することができます。

比較的小口の配送も卸業者が対応してくれているのが実情です。例えば千葉県でも房総半島の端っこまで商品を運ぶのはメーカーにとっては負担になりますが、卸は対応してくれます。

小売に話を戻します。小売、特にドラッグストアにおいては、棚割りは非常に重要です。棚割りとは、売り場の棚にどの商品が置かれるかを指します。

ドラッグストアの店舗において良い棚の位置を取ることは消費財メーカーの営業担当者にとって至上命題です。

棚の場所が一段下がるだけで、その店舗の売上が2~3割変わることも珍しくありません。それほど良い棚の位置を獲得することが重要になってきます。

では、棚を必死にとろうとしているなかで、メーカーがECに力を入れると声高らかに言っていたらドラッグストアや卸はどう思うでしょうか。卸やドラッグストアは良い気分はしませんよね。

ドラッグストアにとっても出店の際に土地を借りて、家賃を払っているため棚1つとっても家賃が発生しています。少しでも売れるものを置きたくなるのは当然です。ネットでは売れるけど、店舗では売れないものは置きたくありません。

ドラッグストア側も売上を最大化するにあたって、ドラッグストアの棚に置くものを売れるものにしていくにあたって、メーカーのスタンスは重要です。

ドラッグストアにとっては、ドラッグストアでしか売らず、テレビCMを打ち続けているメーカーは優遇したくなります。

こうした背景もあり、大手メーカーであっても思い切ってECに舵をきっていくことは難しいのです。

ドラッグストアが独自ブランドを開発

昨今はドラッグストアもOEMを使ってドラッグストア独自のブランドを開発しています。コンビニエンスストアの大手であるセブンイレブンの棚を見るとセブンイレブン独自のブランドが販売されていますね。

以前は、セブンイレブン独自のブランドで高品質なものはあまり多くない印象でしたが、昨今のセブンイレブン独自の商品は高品質なものが多く出てきています。値段も安いわけではなくなってきました。

このように独自のブランドのことをプライベートブランドと呼びます。

アルジェランはマツモトキヨシが販売しているヘアケアブランドです。

 

卸の大手である株式会社あらたは消臭・抗菌・無香料の衣料洗剤などを販売しています。

自社ECサイトは強化していないのが実情

大手メーカーはAmazonやLOHACO、場合によっては楽天などの大手ECプラットフォームは使用して販売をしています。しかし、限定的で、自社のECを強化しようという消費財メーカーはあまり多くないのが実情です。

自社のECサイトを構えているように見えても、実態はAmazonやLOHACOへの送客サイトにとどまっていることもあります。

例えば下記のヘアケアブランドCLEARのサイトはECは送客するのみにとどまっています。

 

自社サイトに決済機能を組んで配送までを自社でするというのは大変なことです。大手メーカーは自社の倉庫がECに対応できていない企業もあります。大手メーカーは生産した商品を基本的には卸業者に配送しているため、小口での配送を行っておりません。

積極的にECに取り組む企業

積極的にECをやる企業はどういった企業でしょうか。

積極的にECに取り組む企業は販売店を自社で抱えており、利害の不一致が起こらずEC化の障害がないため積極的にEC化に取り組んでいます。

多くの企業はECで新しく顧客を獲得しようというより、すでに顧客になっており、ブランドのファンになっている顧客に対して、楽に買える場所としてのECを提供しています。

大手でもネスレは積極的にECに取り組んでいます。サイトの機能性やデザイン性ではまだまだですが成長の余地があると言えます。

 

他にも、これまでネットを使わない高齢者向けにブランドを展開していた企業が方向性を変えるため、若年層を狙う販売チャネルの1つとしてインターネット経由での販売をすることが増えました。

サントリーウェルネスが展開するセサミンEXはインターネットを中心に販売するブランドです。定期通販方式を採用し、高いLTV(Life Time Value)となるビジネスとなっています。

あくまで手段なので、予約システムをオンラインで行い、実際に受け取るのは店頭になるなどオフラインとオンラインの融合をうまく進めている企業も存在します。

今後、大企業がEC事業を成功させていくために

大企業がEC事業を成功させるためには、小売優位な状況を変えていかなければなりません。昨今では、メーカーではなく小売がパワーをもってきたこともあり、小売の意向は無視できません。

そのため、小売優位な状況からかつてのようなメーカー優位の状況を作りあげていくことは必要不可欠です。

メーカー優位な状況になればECを推し進める準備ができます。また小売にとってもECは必ずしも敵ではありません。

これまでの時代は、店舗で初回購入したものを2回目以降はECで購入していたということもありましたが、これからの時代はECで知ったものを店舗で買うことも増えてくるでしょう。

店舗のメリットはECと違い、すぐに商品が手に入ることです。即時性の観点ではECは勝つことはできません。こうした違いを把握しつつ、ECと店舗が共存していく方法を考えていかないといけません。

また、今はまだ十分にうまくいっているとは言い難いですが、小売がECサイトに力をさらにいれていくことになるでしょう。

三越伊勢丹が運営するMOO:D MARK by ISETANは伊勢丹セレクトのギフトサイトとして徐々にではありますが、地位を確立してきています。

三越伊勢丹は三越伊勢丹オンラインストアというECサイトを運営していますがこちらはまだまだです。百貨店が閉鎖する時期があるなか、オンラインストアで販売を強化していかないと生き残るのは難しくなっていきます。

小売店においても小売店でしかできない体験、オンラインも小売店への導線になるような仕組みをうまく作っていくことどブランドロイヤルティを高めていくことにつながります。

オンラインの体験だけより、オフラインでリアルな場で商品を手にとっていくほうがユーザー体験としては良いと私は考えています。

小売もテクノロジーを活用した進化によって消費者への提供価値は今後変わっていきます。テクノロジーの変化にあわせてビジネスをやっていくことが重要です。