D2C分析

D2C企業のIPO

OEMの発展やShopifyなどのECサポートツールの発展、そしてデジタル広告の出稿が容易になったことからD2C業界は急激に成長しています。

また、近年急激な成長を遂げたD2C新興企業が日本を含めた世界中で株式公開(IPO)を目指すケースが増えています。例えば米国ではマットレスのEC販売をしているCasperや、日本では北の達人などが注目を浴びています。

D2C企業の上場に伴い経営上の情報が公開され、D2C企業の事業構造を把握することが可能になりました。

例えばCPA(Cost Per Action:ユーザー獲得費)やLTV(Life Time Value)といった指標を企業によっては開示するようになっています。

この記事では、D2Cの成功事例といえる国内外のD2C企業のIPO事例を個別にご紹介し、D2C企業の成長の鍵を検討します。

Contents

IPOをする理由   

すでにご存知の方も多いですがIPOとはInitial Public Offering の略で「新規上場」を意味します。

より具体的には、未上場企業が株式を証券取引所に新規上場させることを指します。

IPOには様々なメリットがあります。まず、大きなメリットの1つは資金調達力の増大と多様化です。

新しい株式の発行により株式市場からの資金調達が可能になります。

また、知名度の向上と信用力向上による効果も期待できます。

IPOにより、信頼が向上し新規取引の拡大につながります。

IPOのためにも様々な基準をクリアする必要がありますが、上場後も経営上の情報や株価を一般に公開する義務があります。

そのため、健全な経営が行われていることを示すことができ、さらなる信用力の強化にも繋がります。

また、投資家目線でもD2C関連株が今注目を集めています。

自社で企画・製造した商品をECサイト等の自社チャネルで消費者に直接販売するため利益率が高くなると期待されています。

一方D2C企業は必ずしもIPOする必要がなく、ソフトウェア企業と異なり、売上に対して一定の原価がかかるため、利益率が急激に向上するわけではありません。そのため、テクノロジーを駆使していない企業では株価が高くなりづらい領域でもあります。

一方でベンチャーキャピタルなどからお金を調達している場合は、基本的にはIPOする必要があります。IPOし、株を売買できるようにすることでベンチャーキャピタルなどの投資家へお金を返す必要があります。

逆説的な言い方をするとD2C企業は、資金調達をしているからIPOする必要があるといえます。日本では未上場のD2C企業が多いのが実情です。ドモホルンリンクルを販売する再春館製薬所は上場していません。

出典:IPO(株式上場)のメリット・デメリット|株式上場(IPO)|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

海外のD2C企業のIPO事例

Warby Parker

Warby Parkerは2021年9月29日にニューヨーク証券取引所に直接上場しました。

上場時の時価総額は30億ドルです。

事業概要

Warby Parker(ワービーパーカー)は2010年に設立されたニューヨーク発のアイウェアブランドです。

一律95ドルで眼鏡を販売しており、ターゲットは20代前半〜40歳のミレニアル世代です。

Warby Parkerはペンシルベニア大学ウォートン校に在籍していた4人の学生が立ち上げました。

彼らが注目したのがメガネ市場の寡占でした。

当時メガネ業界では1つのメーカーがシェアの大半を握っており、価格競争が生じない構造になっていました。

そのため、消費者は高い値段を払う以外の選択肢がありませんでした。

そこで、彼らはより手軽にメガネを手に取るという新しい選択肢を提供しようと考え、メガネ業界の伝統的な商流を製造から販売まで自社で行うことで、安価で高品質な製品の提供を実現しました。

初めはオンラインストアのみで販売を開始していましたが、現在ではアメリカとカナダで146店舗を展開しています。

2015年にはFAST  COMPANYというアメリカの雑誌が発表したもっともイノベーティブな企業ランキングでアップルやグーグルを抑えて第1位を獲得しています。

強み

①高品質・低価格

Warby Parkerは製造と販売の間にいる中間業者を排除し、また社内デザイナーを配置したことでデザイン性が高く安価な製品を販売することに成功しました。

②顧客とのコミュニケーション

Warby ParkerはEコマースを中心に事業を行っています。

ECの弱点は、実際に商品を手にとって見ることができない点にあります。

そこで、同社は「Home Try-On」というサービスを行っています。

このサービスを利用すると気になる眼鏡を5本まで選んで試着することができます。

送料は無料で気に入ったフレームだけ選んで送り返すことができます。

このように実店舗でなくでも顧客が気軽に眼鏡を購入できるような仕組みにチャレンジしています。

③ブランディング戦略

ブランドに「知性的」なイメージを持たせるために、図書館や書店をテーマにしたブランディングを行っています。

実店舗では図書館のように棚に本を並べたりはしごを置いていたり、ニューヨーク公共図書館でプロモーションを行っています。

オンラインだけでなく、オフラインならではの顧客体験を作り上げています。

また、「Buy a pair, Give a pair」という取り組みを行っています。

これは、Warby Parkerで眼鏡を1本買うごとに発展途上国に眼鏡が1本寄付されるという取り組みです。

ミレニアル世代は商品購入を通じた社会貢献にも関心が高く、購入へのインセンティブにもなっています。

出典リンク:​​The New Model for Retail? Libraries, Says Warby Parker Co-Founder Neil Blumenthal

出典リンク:Warby Parker | We’ve Got Your Eyes Covered

出典リンク: warbyparkerinc S-1

 

Allbirds

アメリカのシューズメーカーのAllbirds(オールバーズ)は2021年8月31日に米証券取引委員会に新規上場を申請しました。

事業概要

Allbirdsはスニーカーを中心としたアパレルブランドです。

元サッカーニュージーランド代表であるティム・ブラウン(Tim Brown)氏とバイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンジャー(Joey Zwillinger)氏が2014年にアメリカで創業しました。

現在では北米やヨーロッパ、中国、日本などの35カ国以上でECサイトを展開しているほか、欧米やアジアなどで直営店を22店舗展開しています。

彼らは「より良いものを より良い方法で」をスローガンに環境への負担を減らした素材を使用することで他社との差別化を図っています。

合成素材を使用せず、ニュージーランド産のメリノウールを使用した「Wool Runners」はそのは着心地の良さで人気を集めています。

この他にも炭素排出量を抑えるためにインソールに石油ではなくヒマシ油を使用したり、梱包材には90%リサイクルのダンボールを使用するなど様々な取り組みを行い、徹底的に「サステナビリティ」を追求したビジネスを行っています。

2016年には社会や公益のための事業を行っている企業に発行される民間認証制度であるBコーポレーションを取得しています。

出典リンク:Our Story – Team, Mission, Founders (Tim Brown & Joey Zwillinger)

出典リンク:Allbirds S-1

強み

 

①自然由来の素材を用いつつデザイン性と快適さも損なうことのない革新的な製品

同社は消費者がデザイン性や快適さ、環境への配慮のどれも妥協することのない製品を提供できる点が強みであると述べています。

シンプルで明確な目的のある製品開発により他者との差別化に成功しています。

実際に、米TIME誌も「世界一快適なシューズ」と評しています。

 

②顧客コミュニティとの繋がり

高品質の製品と「環境を守る」という目的志向のブランドストーリーを伝えることで顧客との信頼関係を築いています。

Allbirdsではwebサイトやアプリ、店舗のどこででもシームレスにブランドの価値観を体験することができ、顧客ロイヤルティを高く保つことができています。

また、データを活用し、顧客情報を分析することで常に顧客のニーズに応えた商品展開を行っています。

2020年には純売上高の53%がリピーターによるものです。

Casper Sleep Inc.

アメリカのマットレスブランドであるCasperは2020年2月6日に上場を果たしました。

俳優のレオナルド・ディカプリオやスノーボーダーのショーンホワイトも出資していることで注目を集めていました。

事業概要

Casper Sleep Inc.(キャスパー・スリープ)は 2014年に創業し、米国ニューヨーク州に拠点を構え、良質な睡眠のためのマットレスを販売している企業です。

2019年12月にはConsumerReportsで「過去10年間でもっとも影響力のある製品」の1つにも選ばれました。

睡眠は栄養、フィットネスに次ぐウェルネスの第3の柱になりつつあり、主要な消費カテゴリーに変化しつつあると考えています。

スリープエコノミーはマットレスだけでなく枕やパジャマ、ライトなど様々な製品で構成されています。

現在Casperが取り組んでいるカテゴリーと地域の総市場規模は2019年時点で670億円であり、大きな成長の機会があると述べています。

Casperの最大の特徴は寝具にD2Cを取り入れたという点です。

中間業者を排除することでコストを抑え安価な製品を提供することができます。

またそれだけではなく、Casperが消費者と直接接点を持つことができるようになり、D2Cの弱点をカバーするような保証やトライアルサービスの提供が実現できました。

トライアルサービスを利用すれば、30日間のトライアル期間後に気に入らなかった場合は無料で返品することができます。

また、オンラインだけでなく実店舗でも没入型の店内トライアルを行っています。

ECや小売店などの直接販売チャネルと小売パートナーシップを合わせた柔軟なマルチチャネルアプローチと顧客データの活用が強みです。

強み

①柔軟なマルチチャネルアプローチ

ECや小売店などの直接販売チャネルと小売パートナーシップを合わせた柔軟なマルチチャネルアプローチと顧客データの活用が強みです。

デジタル上の店舗と実店舗の一貫性を意識し、どの販売チャネルであっても消費者に最高の体験を提供できることに重点を置いています。

複数のチャネルが相互作用的な「ネットワーク効果」を生み出し、全体の売り上げを増加させると考えています。

②アジャイルなデータ駆動型のビジネス

Webページへのアクセスや小売店の分析、SNSやユーザーのレビューなど様々な消費者の睡眠行動に関するデータを蓄積しています。

このデータを分析して新製品開発や既存の製品の改善、価格設定等の様々な領域を顧客視点へと強化しています。

課題

株式公開前の企業価値が10億ドルとも言われていたCasperですが、上場後は初値の14.5ドル以降株価は半分程度に下落しています。

①D2C売上げの鈍化

同社の売上げは自社サイトでの商品販売とアマゾンなどの小売パートナー経由での売り上げの2つがあります。

その売り上げ構成比は2019年第3四半期にD2Cは79.6%を占めていましたが、2020年第3四半期では72.8%まで低下しパートナー経由での売り上げが増えています。

②コストマネジメント

Casperは営業コストがかさみ、上場以来一度も黒字化できていません。

マーケティングコストや65店舗ある自社小売店の運営コストやパートナーに支払う販売手数料などが重しとなっています。

顧客拡大やマーケティング競争に終始するのではなく、適切に取捨選択を行い、消費者に真に求められている製品の提供に立ち返る必要があるかもしれません。

出典リンク:Casper – Casper Reports Record Quarterly Revenue in 2021 Second Quarter

出典リンク:UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION FORM 10-K Casper Sleep Inc.

出典リンク:casper sleep inc.

 

国内のD2C企業のIPO事例

近年では海外だけでなく、日本国内でもD2C企業が上場するケースが増えています。

I-ne 

BOTANISTをはじめとするヘアケア製品を取り扱う株式会社I-neは2020年9月25日に東京証券取引所マザーズ市場(以下、東証マザーズ)へ新規上場しました。

事業概要

I-ne(アイエヌイー)は2007年に設立されたヘアケア製品や美容家電、化粧品および健康食品関連のブランドや製品の開発、販売を行っている企業です。

販売形態は国内の卸売事業者を通じた小売店及び量販店への卸売販売とインターネットを活用した国内外の一般消費者への直接販売です。

主力ブランドはヘアケアブランドの「BOTANIST」と美容家電ブランドの「SALONIA」です。

一度はこのブランドの名前を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

BOTANISTは「植物と共に生きる ボタニカルライフスタイル」をコンセプトとして2007年にスタートしたシャンプー・トリートメントブランドです。

植物由来の成分と洗練されたテクスチャーが特徴です。

また、当時シャンプー・トリートメントとしては珍しかった透明パッケージも特徴の1つです。

現在では、ヘアミルクやボディーソープなど商品ラインナップの拡充も行っています。

SALONIAは2012年にヘアアイロンからスタートした美容家電ブランドです。

現在ではヘアアイロンだけでなく、ドライヤー周辺商品の展開も行っています。

初めはインターネットを介した直接販売が中心でしたが、現在は多くの家電量販店でも販売されています。

強み

①ハイバリューブランドの企画開発力

AIインサイトスコープシステム「KIYOKO」により、海外情報を自動収集し、新しいトレンドの着想を得ることでトレンドの一歩先のブランド企画が可能です。

ヒット商品を生み出すための新たなツールとして、最先端AIシステム「インサイトスコープ”KIYOKO(キヨコ)”」を独自開発。世界239ヵ国のニュースサイトや口コミサイト、SNSといった約2,000万件を超えるあらゆる媒体から収集したビッグデータを解析し、消費者の潜在的ニーズをよみとります。

出典リンク:I-ne公式 トレンドキャッチ

②D2Cプラットフォームの拡大実績

I-neは創業から15年間育ててきたD2Cプラットフォームを起点として、オンラインからオフラインへの流れを活かした商品開発・マーケティングが強みです。

自社ECサイトである「&Hbit」やSNS会員を合わせると3,400万人のオンライン顧客データを有しています。

この会員基盤をマーケティングに活かすことでユーザー視点での企画・開発が可能です。

I-neは自社工場を持たないファブレスメーカーであり、専門の知見を持った提携の工場と企画を進めています。

そのため、データを活かしてスピード感を持ってPDCAサイクルを回すことができます。

また、OMOマーケティングの強化や広告費や市場調査にかかる時間やコストの削減にも繋がります。

③国内オフライン流通店舗網

I-neは2019年度末には国内流通6万2000店舗の販売ネットワークを有しています。

ドラッグストアや量販店、バラエティショップ、コンビニエンスストアなどに広く流通網を持っており、「D2C企業」の枠を超えた事業拡大に成功しています。

成長戦略・取り組み

①主力ブランドの拡大

主力ブランドの既存の育成や新カテゴリ進出、中国展開に注力しベースの売上高拡大を図っています。

その一環としてBOTANISTは2021年3月にブランド初のフルリニューアルを行い、品質の向上、コミュニケーションの深化、サスティナブルなブランドへの進化に取り組みました。

具体的には、厳選した植物由来成分配合の5シリーズを横並びに展開すると共に、5種の中から自分にあったシリーズを選べるように仕上がりの特徴を明確に訴求することで製品の特徴がよりユーザーにわかりやすいように改良しました。

これらの取り組みの結果、販売金額がフルリニューアル前の前年同期比で195%にまで増加しました。

今後はBOTANISTのスキンケアへの拡大やSALONIAも美顔器や脱毛器等の新たなカテゴリーへの進出への取り組みを進めるとしています。

②育成ブランドの創出

NICOLESSやDROASなどの育成ブランドが大幅に伸長しています。

NICOLESSは茶葉から生まれたニコチンゼロの次世代タバコです。

全国規模でTVCMを実施し、また全国のファミリーマートへの配荷拡大にも取り組み、20,000店舗にまで拡大しました。

2019年以降に立ち上げた育成ブランドNICOLESS、CAROME.、DROAS、CHILL OUTを対象に前年同期比で154%で成長、6.8億円の増収を達成しています(2021年12月期1Q)。

今後もこれらのブランドの育成に注力し、新たな柱を構築するとしています。

③新規分野への進出

2020年に上海に子会社を設立し中国への本格的な進出を始めています。

2021年5月からは中国大手ドラッグストアチェーンWatsons約2,750店舗への配荷を開始しています。

出典リンク:ブランド開発事業 | 株式会社I-ne(アイエヌイー)

出典リンク:2021年12月期第1四半期 決算説明資料

出典リンク:新規上場申請のための有価証券報告書

 

Waqoo

株式会社Waqooは2021年6月29日に東証マザーズに上場しました。

事業概要

Waqooは2005年に東京でペット用品の販売事業を目的に「有限会社ぷらすぺっと」として創業しました。

その後2007年に株式会社に組織変更し、株式会社コマースゲートに商号変更。

美容・健康食品販売サイト「恋するコスメ」をリリースし商品販売事業を開始しました。

その後、2014年に現在の「株式会社Waqoo」に商号変更しました。

Waqooは「テクノロジーの力で自国の未来に希望を創る」をミッションに掲げ、D2C事業を行なっています。

デジタルマーケティングを活用した化粧品等のオリジナルブランドを展開し、自社サイトを通じて消費者に直接販売しています。

主力ブランドである「HADA NATURE」は35歳〜49歳の女性がメインターゲットです。

販売形態はサブスクリプション型を採用しています。

そのため、顧客が商品を継続的に購入することで安定的に収益を確保することが可能です。

強み

独自のD2C基幹システムを構築し、顧客データやレビュー等の様々なデータを取得し統合データベースに蓄積しています。 

そのデータを活かして高付加価値なオリジナルの美容健康ブランドの企画・開発を実現し、高い顧客満足度を獲得するという、効率的かつ効果的なセールスプロモーションが強みです。

成長戦略

①商品・ブランドの水平展開

主力ブランドである「HADA NATURE」シリーズは現在クレンジングや化粧水等の幅広いラインナップの製品が販売されています。

この再現性のあるモデルを活かし、商品カテゴリの拡大とブランド数の拡大を図ることで安定的収益を確保するとしています。

②ターゲットの水平展開

現在のメインターゲットはF2層と呼ばれる35歳〜49歳の女性です。

今後は、その他の顧客層にも対応した商品開発を行い、マスブランド化を目指すとしています。

③顧客タッチポイントの多様化

新規顧客獲得のタッチポイントをweb広告だけでなく、紙メディアやテレビCM等のマス広告にも拡大しています。

店舗にも面を広げ、O2OやOMOなどのオフラインとオンラインを融合したマーケティング戦略を実行し、顧客を定期顧客化させることで安定的な収益を増大させる成長モデルの構築を実行中です。

O2O(Online to Offline)とは、オンラインで情報発信を行い、集めた見込み客をオフラインへ誘導し購買を促す施策のことです。

OMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインの境界線をなくして顧客一人ひとりに最適なサービスを提供する施策を指します。

出典リンク:Waqoo[4937]:事業計画及び成長可能性に関する事項 2021年6月29日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

ドリームベッド

ドリームベッド株式会社は2021年6月23日に東証2部に上場しました。

事業概要

ドリームベッドはマットレス、ベッドフレーム、ソファ、枕、布団等のデザイン開発から製造、販売を行っている企業です。

自社ブランド製品と海外提携ブランド製品を自社工場及び協力工場で製造して、「家具販売店向け」と「商業施設向け」を主要な販売チャネルとして営業展開をしています。

今まで紹介した企業とは異なり、実店舗での販売を軸に事業を行っています。

 自社ブランドとしては、「dream bed(ドリームベッド)」(日本)、「WATER WORLD(ウォーターワールド)」(日本)を展開しています。

 自社製造で培った技術力が評価され、海外複数のインテリアブランドとライセンス契約を締結し、主な海外提携ブランドは、「Serta(サータ)」(アメリカ)、「ligne roset(リーン・ロゼ)」(フランス)、 「ruf (ルフ)」(ドイツ)です。 

強み

①サータをはじめとする複数ブランド

高い製造力が評価されて海外有数のブランドとライセンス契約を締結しています。

特に、アメリカで8年連続シェアトップ(2011年~2018年)を誇るSerta(サータ)の認知拡大に注力しています。

②高い製造力

鋼鉄の太さ、形、配列方法などを組み合わせエンドユーザーの好みの寝心地を実現することができます。

任意のコイルの配列技術は特許も取得しており、製造力は他社と大きく差別化を図っている部分であると述べています。

今後の取組み・成長戦略
①マーケティング施策による認知度の向上

web広告やSNS、TVCMなどのマーケティング施策により、製品情報を収集するエンドユーザーへアプローチを行い、ショールームや家具販売店で寝心地を体感のうえ、購入するという流れの構築を目指します。

②戦略商品・キャンペーンによる来店・販売促進

戦略商品・キャンペーンに関するデジタル広告を配信しエンドユーザーの来店・販売の促進を図ります。

具体的にはマットレスを組み合わせて2つの寝心地を体験できるペアリングツインやプレミアムホテルとのコラボレーション企画などを行っています。

③ショールームの活用

製品を実際に体験できるショールームを活用することで、webマーケティングとのシナジー効果を発揮しサータのファン育成やブランドイメージ向上を図ります。

出典リンク:新規上場申請のための有価証券報告書 (Ⅰの部)

アルペン

スポーツ用品などを販売している株式会社アルペンは2006年に東証1部に上場しています。

上場時期は少し前ですが、ビジネスモデルとしてD2Cに近いためご紹介します。

事業概要

株式会社アルペンは1972年に名古屋で設立されたスポーツ用品、レジャー用品の商品開発、販売やスキー場、ゴルフ場、フィットネスクラブの経営を行っている会社です。

創業当初はスキー用品の販売を主体とした「アルペン」のみを展開していましたが、次にゴルフ用品の販売を行う「ゴルフ5」を開設、その後、野球用品などの各種スポーツ用品の販売する大型店舗として「スポーツデポ」を展開しており、これら3つが主力事業です。

強み

①オフラインでの店舗網と豊富な品揃え

豊富な知識をもつ質の高いスタッフのホスピタリティによりオフラインならではの体験価値を提供しています。

また、全てのカテゴリーを合わせると10万点を超える品揃えを展開しています。

商品が豊富にあるだけでなく、地域特性によるニーズの違いにも柔軟に対応しています。

②オリジナルブランド商品を中心とした高品質低価格な商品の提供

同社は企画~製造までのすべてのプロセスを社内で管理することにより、高い品質と低価格を両立させています。

自社ブランドの魅力を適切に消費者に訴求することで利益率上昇を目指すとともに、ナショナルブランドメーカーとも積極的に連携し、オリジナルブランド商品とナショナルブランド商品のベストミックスを実現するとしています。

③デジタルを駆使した新たな事業モデルの構築

近年の顧客の新たな購買行動に対応して最先端のデジタル技術を活用しながら、リアル店舗とECサイトの双方をが連携した新たな事業モデルの構築に取り組んでいます。

アプリやSNSを通じた顧客コミュニケーションだけでなく、EC事業にも最優先で投資を継続しています。

その結果EC事業では前年同期比で134%の売上高を達成しています(2021年6月)。

今後の取り組み・成長戦略

①デジタル化の進展

ECサイトの機能性を高め、リアル店舗との連携も強化することで、スポーツ・レジャー用品のEC市場における優位性の確率を目指すとしています。

また、2019年から導入した会員プログラムの顧客データの活用も行い、リアル店舗とECサイトの双方で顧客満足度を高めるとしています。

②ブランド力の強化

企業・ストア・商品のブランドコンセプトを統合的に管理することで、ブランド力強化を図るとしています。

また、独自性のあるオリジナルブランド商品を生み出し続けることで、会社の知名度向上および中期的な成長を目指しています。

出典リンク:第49期有価証券報告書

出典リンク:6つの挑戦 | アルペングループ 

出典リンク:株式会社アルペン 2021年6月期 決算説明資料

 

今後注目すべきD2C企業

SHEIN

中国初のD2CアパレルブランドであるSHEINは、アメリカを中心にグローバルで急成長しており、アパレル業界では数少ないデカコーン企業(企業価値が100億ドル[約1兆900億円]を超える巨大未上場企)の1つです

今後上場の可能性がある注目のD2C企業の1つです。

事業概要

SHEINは2012年に設立された中国発のD2Cアパレルブランドで、現在は世界150以上の国と地域で展開しています。

現在、アメリカを中心にグローバルで急成長しており、アパレル業界では数少ないデカコーン企業(企業価値が100億ドル[約1兆900億円]を超える巨大未上場企)の1つです。

SHEINは、2008年に許仰天(クリス・シュー)氏により創業された「南京希音电子商务」という会社が母体になっています。

SHEINは、今や「Z世代」のアメリカ人にはポピュラーなブランド(アプリ)です。

Z世代とは1990年後半から2000年代に生まれた世代を指します。

世界56カ国のiOSアプリのショッピングカテゴリー部門において、ダウンロード数No1を獲得しました。

2021年第1四半期の実績では、アメリカのショッピングアプリにおいて3番目のダウンロード数を達成しました。

また、業績も2020年の売上は前年から3倍近く伸びて、7425億円にまで成長しました。

アメリカだけでなく欧州やアジアでも知名度をあげつつあるSHEINですが、中国国内ではあまり知られていません。

また、アメリカをはじめとする多くのSHEINを利用している若者はSHEINが中国企業であるということには気が付いていないでしょう。

強み

①UX(ユーザーエクスペリエンス)の高さ

低価格で豊富なラインナップと商品サイクルの圧倒的なスピード感がユーザーの高い満足度に繋がっています。

1日約3000〜12000点の新商品が登場しており、他に類を見ない商品サイクルの速さを実現しています。

②デジタルマーケティング力とコストマネジメント力

SHEINはInstagramやTikTokをはじめとするSNS上のマーケティング力に優れています。

インフルエンサー等も活用することで、Z世代の関心を惹きつけ新規顧客を獲得しています。

また、独自のサプライチェーンにもデジタルを活用しています。

SNSやグーグルトレンドを活用した「トレンド分析」や企画・デザインにおけるAIの活用で毎日大量の新商品を展開しています。

また、システム上で在庫管理や生産調整が可能なシステムが導入されており、生産工場はスピード感を持って対応することが可能になります。

受注から生産までデジタルでリアルタイムに繋がっているからこそ、SHEINの圧倒的なスピード感のある商品展開とコストマネジメントの両立が可能になっています。

ここまで、SHEINの競合優位性とその急成長ぶりについてご紹介しました。

しかしながら、大量生産・大量消費のSHEINのビジネスモデルは長期的な視点でサステナブルなのかどうか疑問が残る点もあります。

IPOに踏み切るには、持続可能な成長が見込めるのかどうか様々な角度から検討し、サステナブルなビジネスモデルを構築する必要性もあり、今後のSHEINの動向に注目が集まっています。

出典リンク:アパレル初!謎の1兆円未上場企業「SHEIN」の正体 – ニュース・コラム – Y!ファイナンス

出典リンク:レディース・メンズ・ファッションオンラインショップ |SHEIN

D2C企業の企業価値

本章ではD2C企業銘柄の時価総額をPERを指標に考察します。

​​株価が1株当たり純利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度です。

一般的に利益成長の高い会社ほど、将来の収益拡大の期待が株価に織り込まれるため、PERは高くなる傾向があります。

まずは、D2C企業を考察する前にD2C企業とビジネスモデルが似ており、2000年代から存在する通販系の企業を検討しようと思います。

現在はご紹介の通りいくつかのD2Cの上場企業が出てきましたが、D2Cの上場企業がまだ少ない中で通販系の企業は1つの指標になります。

具体的には「北の達人」と「オイシックス」を例に取り上げてご紹介します。

北の達人は主にインターネット上で一般消費者向けに自社オリジナルブランドの健康美容商品等を販売する「Eコマース事業」を行っています。商品開発は自社で行っていますが、製造はOEMを委託しています。


売上高:92.7億円(前年比8.2%減)
営業利益:20.3億円
営業利益率:21.9%
当期純利益:13.9億円
PER:61.86倍
時価総額:860億円   (2021年2月期)

出典リンク:業績ハイライト | 株式会社 北の達人コーポレーション

オイシックスはウェブサイトやカタログによる一般消費者への有機野菜、特別栽培農産物、無添加加工食品等、安全性に配慮した食品・食材の販売を行っています。


売上高:1兆円(前年比40.9%増)
営業利益:74億円
営業利益率:7.5%
当期純利益:50.3億円
PER: 21.16倍
時価総額:1兆640億円 (2021年3月期)

出典リンク:2021年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

売上高はオイシックスが圧倒的に多いですが、北の達人の営業利益率は20%を超えており非常に高いです。

成長率に関しては北の達人はほぼ横ばいなのに対し、オイシックスは40%程度と高い成長率を誇っています。

しかし、PERを見るとオイシックスは20倍程度と標準的ですが、北の達人は60倍程度であり、北の達人の収益性の高さを伺うことができます。

これらのことから考えると、通販・D2C企業においては売上高や成長率ではなく、営業利益率の高さなど上場時の収益性に重点が置かれていることがわかります

SaaS企業との比較

マネーフォワード

ここで比較対象として2017年に上場したSaaS企業であるマネーフォワードについてもご紹介します。

マネーフォワードは公正でオープンな金融プラットフォームを提供することをミッションに掲げて個人や法人、金融機関向けにサービスを開発・提供しています。

収益構造としては、収益がストック型で積み上がる月額課金モデルがメインです。

マネーフォワードは、2017年9月29日にマザーズに新規上場しました。

また、その後2021年6月14日には投資家層の拡大や資金調達コストの低減を目的に第一部へ市場変更しました。

出典リンク:マネーフォワード 2020年11月期  決算短信

マネーフォワードは売上高は年々成長しているものの、上場時の営業利益はマイナス7億円程度の赤字でした。

しかし、株価は公開価格の1,550円を93.54%上回る3,000円で、時価総額は初値で548億円で上場を迎えています。

このように近年SaaS等のIT系企業では赤字上場のケースが増えています。

SaaSでは開発や販促にかかる先行費用を利用者から定期的に受け取る料金によって回収するビジネスモデルが主流です。

契約に基づく定常的な収益を見込むことができ、また顧客獲得に対する効率性を示すユニットエコノミクスなどの指標によって数値管理が可能であり、将来の業績を見通し安いとされています。

そのため赤字であっても先行投資を行い収益の最大化を図ることが適切であると言えるビジネスです。

ビジネスの透明性を高めるとともに適切なコストマネジメントを行うことで将来的に高い利益を継続的に出すことのできる企業であるということを示すことができます。

そこで、SaaS企業の企業価値評価方法にも変化がありました。

従来は利益ベースのPERで判断されていましたが、SaaS企業では将来の利益につながる売上げと成長率をベースにした評価が定着しつつあります。

マネーフォワードも当初は赤字が先行するが、利用者の基盤が拡大すれば損益は改善すると予想されており、赤字でも買われてきました。

実際に、マネーフォワードは2020年12月〜21年5月期の連結決算では最終損益が2000万円の黒字(前年同期は12億円の赤字)となりました。

これは経費精算ソフト等の企業向けクラウド事業が好調であったことによるものです。

D2Cの企業評価を高める鍵

SaaSを含めたIT系企業は単一の事業を展開するだけでなく、そのネットワークやプラットフォームを利用して副次的に多様なビジネスを展開しています。

国内のD2C企業は現在、ブランド開発や規模の拡大の注力にとどまっている段階であり、複利的なビジネスの確立には至っていません。

持続力のあるポートフォリオを構築し、成長の予見可能性を高めることができる企業が現れれば、D2C企業のPERはさらに高まると考えられるでしょう。

国内と海外のD2C企業 PER比較

ご紹介した海外・国内D2C企業のPERの一覧をご紹介します。

<市場平均PER>

マザーズ 333.1倍
S&P500 29.06倍

 

<公開価格PER(前期ベース)>

国内企業

I-ne 49.60
Waqoo 52.67
ドリームベッド 8.89
アルペン 24.12

海外企業

Warby Parker マイナス
Allbirds   ー
Casper 5.99

出典リンク:S&P 500 PE Ratio

出典リンク:Casper Sleep Inc. Common Stock (CSPR) Revenue EPS

MTG会計不正からみる持続可能なビジネスモデルの重要性

トレーニング機器「シックスパッド(SIXPAD)」やローラー美顔器の「リファ(Refa)」を販売するMTGは2018年7月10日にマザース市場へ新規上場しました。

サッカーポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド選手をCMに起用するなど、マーケティングで注目を集めており、株価は公開価格の5,800円を21.5%上回る7,050円の初値をつけました。

公開時価総額は224,141 百万円で、フリマアプリのメルカリに次ぐ大型上場として注目を集めていました。

しかしながら、2019年5月に中国の子会社「MTG上海」で不適切な会計処理の疑いが判明しました。

具体的には本来は売上に計上すべきでない同社の中国向け売上について、監査法人に虚偽説明を行うなどして計上していました。

この不正が起きた最大の原因は上場前後における業績の低迷への焦りでした。

上場直後の公表数値の未達成は許されないとする全社的な風潮の中が不適切会計を助長していたと報告されています。

そもそも、業績が低迷し始めた最大の理由は市場が中国に偏っていたことです。

本件の会計不正は主力商品であるReFaブランドの美顔ローラーに関するものであり、この商品の売上は中国向けと日本・韓国における中国からの訪問客による転売目的の購入が大半を占めていました。

しかし、2018年10月以降日本や韓国における中国からのインバウンド需要が大きく減少しました。

その原因は大きく2つあります。

  1. 2018年9月に中国は空港における転売目的の代理購入者の税関検査の運用を強化し、関税徴収が厳格化されました
  2. さらに、2019年1月には中国で新EC法が施行され、中国向け越境ECサイトの経営者や中国国外で購入した商品を転売する個人の代理購入者は購入国と中国で営業許可証の取得や納税等を義務付けられました

MTGの疑義取引の背景には以上のような中国市場への過剰な期待と多額の売上設定によるプレッシャーがあったようです。

急成長を遂げて注目を集めている企業は、上場すればさらに注目を集め、市場も熱狂すると予想されます。

しかし、短期的な注目度に惑わされることなく、中長期的な視点で持続可能なビジネスなのかどうかしっかりと検討する必要があるでしょう。

出典リンク:MTG:第三者委員会の調査報告および今後の対応に関するお知らせ

参考文献

 

出典:IPO(株式上場)のメリット・デメリット|株式上場(IPO)|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

出典リンク:​​The New Model for Retail? Libraries, Says Warby Parker Co-Founder Neil Blumenthal

出典リンク:Warby Parker | We’ve Got Your Eyes Covered

出典リンク: warbyparkerinc S-1

出典リンク:アイウエアD2Cの「ワービー パーカー」が上場

アイウエアの「ワービー パーカー」がIPO準備 財務資料を初公開

出典リンク:アイウエアD2Cの「ワービー パーカー」が上場(WWDJAPAN.com) – Yahoo!ニュース

出典リンク:Our Story – Team, Mission, Founders (Tim Brown & Joey Zwillinger)

出典リンク:Allbirds IPO: What You Need To Know

出典リンク:Allbirds S-1

出典リンク:Casper – Casper Reports Record Quarterly Revenue in 2021 Second Quarter

出典リンク:UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION FORM 10-K Casper Sleep Inc.

出典リンク:casper sleep inc.

出典リンク:I-ne公式 トレンドキャッチ

出典リンク:ブランド開発事業 | 株式会社I-ne(アイエヌイー)

出典リンク:2021年12月期第1四半期 決算説明資料

出典リンク:新規上場申請のための有価証券報告書

出典リンク:Waqoo[4937]:事業計画及び成長可能性に関する事項 2021年6月29日(適時開示) :日経会社情報DIGITAL:日本経済新聞

出典リンク:新規上場申請のための有価証券報告書 (Ⅰの部)

出典リンク:第49期有価証券報告書

出典リンク:6つの挑戦 | アルペングループ 

出典リンク:株式会社アルペン 2021年6月期 決算説明資料

出典リンク:アパレル初!謎の1兆円未上場企業「SHEIN」の正体 – ニュース・コラム – Y!ファイナンス

出典リンク:レディース・メンズ・ファッションオンラインショップ |SHEIN

出典リンク:業績ハイライト | 株式会社 北の達人コーポレーション

出典リンク:2021年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

出典リンク:S&P 500 PE Ratio

出典リンク:Casper Sleep Inc. Common Stock (CSPR) Revenue EPS

出典リンク:MTG:第三者委員会の調査報告および今後の対応に関するお知らせ