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ECサイト運用の目的と成功
ECサイトは昨今トレンドとなっており、多くの企業が導入を開始・検討しています。
しかし、流行っているからという理由だけでやみくもにECサイトを開設しては失敗してしまいます。
EC業界は変化が速く、日々様々なサービスが生まれており、自社のブランド価値を高めるためにも常にECサイトを改善し続ける必要があります。
ECサイトの運用目的が曖昧であると、何をどう改善すれば良いのか分からず迷走してしまいます。
ECサイトの運用目的を明確に定めることで、自ずと課題と目標が整理され「成功」を定義することができます。
また、ECサイトは何でもできるわけではありません。システム上の制限もあり、話題性だけにつられてプラットフォームを選ぶと失敗してしまいます。
決済手段が豊富でも機能拡張性が微妙だったり、拡張性やカスタマイズ性に優れていてもセキュリティ面が不安だったりと各ECシステムごとに特徴があります。
大きな決定をした後でミスマッチを起こさないように、事前にしっかりと調査することをおすすめします。
事業者はECサイトを導入する前に「誰のために、何を、どうやって提供するのか」というビジネスの根本的な部分を定義する必要があります。
自社の資産や長所を最大限活用して、顧客に喜んでもらいファンになってもらうための1つのツールとしてECサイトは存在しています。
ビジネスの目的を達成するには、本当にECサイトを今開く必要があるのか、そしてどのプラットフォームが事業者と顧客双方のニーズに応じていて最適なのかしっかりと検討する必要があります。
そうすることで、現状の課題が整理され成功への筋道が見えてくるでしょう。
Shopifyとは
Shopify(ショッピファイ)は2004年にカナダで創業されたECプラットフォームです。クラウド基盤で動くSaaS型ECソリューションで、ECサイトの構築から運用まで幅広くサポートしてくれます。
現在は175か国170万店舗で導入されており、世界No.1のシェアを誇ります。流通総額は2,000億ドルを超えています。
日本では2017年にサービスを開始し、土屋鞄製造所や、MrCHEESECAKE、Tabioなど多様な業種の国内企業で導入されてきています。
このようにShopifyが支持される理由は、月額29ドルから始められる手軽さや、5,000以上のアプリによる機能拡張性、Web開発知識がなくても直感的に扱える操作性が挙げられます。
Shopifyストア事例
KANAGU STORE
KANAGU STOREは職人がこだわった金属雑貨やインテリアを販売するECサイトです。
画一的な大量生産、使い捨て的な消費ではなく気に入ったものを大切にするスローショッピングをコンセプトに掲げていて、そのコンセプトにあったシンプルでスタイリッシュなサイトデザインが特徴的です。
FacebookやInstagramとも連携していて、購入までの流れもスムーズに設計されています。
出典リンク:商品 – KANAGU STORE
AKEBONO TEA
AKEBONO TEAは日本茶を国内だけでなく海外の人々にも広めたいという想いから誕生したブランドです。
クラウドファンディングからスタートした商品で、複数のメディアにも取り上げられ注目を集めていました。
同ブランドは日本茶の海外シェアを拡大することを目標としています。
Shopifyは全世界でサービスを展開しており、多言語・多通貨・海外発送に対応しています。
越境ECへの参入障壁の低さもShopifyの強みです。
出典リンク:日本茶ベース専門のオーガニックティー|AKEBONO TEA TOKYO
出典リンク:日本茶を、世界中で当たり前の存在に。AKEBONO TEAの挑戦 | マーチャントストーリー – AKEBONO TEA
Shopify成功事例
土屋鞄製造所
事業概要
土屋鞄製造所は皮革製品の企画・製造・販売を行う企業です。
もともとはランドセル職人だった土屋氏の工房からスタートし、現在では大人向けの鞄や財布などの販売を行っています。
土屋鞄製造所はシンプルで時間を超えて長く愛せる製品を1つずつ職人の手作りで届けており、ECサイトやSNSなどの集客施策ではその丁寧な世界観が一貫性を持って表現されています。
同社はまだ国内での導入事例が少ないShopifyの中の最上位プランであるShopify plusを採用しています。
成功のポイント
綿密な調査と明確な目的設定
土屋鞄は2000年代初めからECによる販売を始めていましたが、ブランドの成長と共に何度かリプレイスしていましたが、アップデートにかかる費用と時間が大きく、スピード感を持って変化に対応することが難しいという課題を抱えていました。
また、セキュリティを強化するために保守にかなりのコストがかかっているという課題もありました。
そこで、Webエンジニア・開発ディレクター・ECオペレータ・マーケター・カスタマーサポートなどが必要な大人数の組織ではなく、スモールチームで改善を自走できる組織・運用を目標としていました。
目標を明確にした上で、目的に見合ったアプリであるか様々な視点で調査し、短時間で検証から実装まで行うことができるShopifyの拡張性の高いアプリを採用しています。
また、日本国内の導入事例や海外のD2Cブランドサイトを調査したり、既存のプラットフォームの機能を棚卸しし、機能の優先順位をしっかりと付けてチーム内で共有していました。
このように明確な目的を設定し、適切な調査・分析をした上で判断することで、実際に導入を開始しても適切に対応することができます。
自走力のある社内体制
土屋鞄製造所はスモールチームによる自走を目指すにあたり、Shopify Plusの導入以前から社内教育を徹底し、スタッフのスキル獲得に注力していました。
Shopify Plusを利用する上で「使いこなせるかどうか」は成功の可否を握る重要なカギになります。
機能が豊富にあるからといって全てを盛り込めば良いという訳ではなく、削らないといけない場合もあります。
システムの仕様を理解して、自社のビジネスにうまく落とし込むことができてこそ健全かつスピード感のある運用は実現できます。
逆に、事業者側で要件をまとめられない場合は、ヒアリングからシステム実装までをワンストップで対応してくれる国内のパッケージサービスの利用を検討した方が良いケースもあるでしょう。
ベンダーに丸投げせずに取捨選択する力が社内にあり、「ユーザーにどのような影響を与えるのか」を考えることができる点が土屋鞄製造所の強みであり、Shopifyと相性が良いということができます。
また社内体制が整っていて意思決定がスムーズだからこそ、本来の集中すべきブランディングや顧客満足度の向上に力を割けるようになりました。
出典リンク:いつまでも持ち主に寄り添う鞄を 土屋鞄製造所が手掛けるブランド作り
出典リンク:土屋鞄製造所
ミスターチーズケーキ
事業概要
ミスターチーズケーキはフレンチシェフだった田村氏が研究を重ねたチーズケーキのみを販売しているECストアです。
オンライン限定で毎週日曜日と月曜日の午前10時からの週2回販売しています。
趣味で作っていたケーキの写真をInstagramに投稿したところ、DMで食べてみたいという声が多く届いたことから「ミスターチーズケーキ」はスタートしました。
成功のポイント
ブランド世界観の表現
その後、2018年から「BASE」での販売を経て、2019年にはShopifyで自社ECサイトを立ち上げました。
この時期にShopifyに移行した理由は「ブランドの世界観を表現する」ためです。
画一的なデザインになりがちなモール型のECサイトでは、写真や価格で判断されることが多く、顧客へのメッセージが伝わりづらいです。
そこで、Mr.CHEESECAKEのサイトではブランドコンセプトや美味しい食べ方などをシンプルに分かりやすく伝えています。
同社はただケーキを販売するだけではなく、「食の体験を通じた豊かな時間」を提供することを目標としていると述べています。
季節に合わせたアレンジレシピやもサイト上で公開することで、商品はチーズケーキのみでありながら、サイト訪問の目的が「購入」だけにならないように工夫しています。
全ては、届けたい顧客体験からの逆算。Mr. CHEESECAKE代表・田村浩二さんに聞く、D2C Eコマースでの体験価値のつくり方
SNSの活用
ミスターチーズケーキはもともとInstagramから評判が広がったという経緯もあり、SNSもうまく活用した集客を行っています。
2021年11月現在、Instagramのフォロワー数は15.1万人で、Twitterのフォロワー数は4.2万人です。
ShopifyとInstagramを連携して購入への導線を確保しているのはもちろんのこと、ポップアップストアの販売状況をリアルタイムに更新するなど、顧客視点での情報発信も行っています。
また、匿名性の高いTwitterで得られる顧客のリアルな声も商品の改善に役立てています。
このように、丁寧に顧客とコミュニケーションをとり向き合うことで、ブランドロイヤルティを高めることに成功しています。
オリオンビール
事業概要
オリオンビールは沖縄に拠点をおく日本の大手ビールメーカーで、国内第5位のシェアを誇っています。
コロナ禍で飲食店が大きな影響を受ける中、オリオンビールは2020年7月にECサイトをリニューアルして以来、EC売上を急激に伸ばしています。
成功のポイント
ターゲットの設定
オリオンビールは沖縄を拠点としていたため、コロナによる影響は非常に大きいものでした。
緊急事態宣言以降、県内の飲食店は休業してしまったり、酒類の提供を中止するなどの状況が続いていました。
また、観光客の大幅な減少によりビールの消費量は大きく落ち込んでいました。
そこで、ECサイトを「県外のファンを取り込む」武器へとリニューアルが決定しました。
コンセプトは「沖縄時間を家でも楽しんでもらう」です。
リニューアル前は4種類しか販売していませんでしたが、現在販売している商品の数は計60種類です。
そのうちビールは16種類、チューハイが13種類、泡盛やジンがなどの県産品が7種類、残りがオリジナルグッズで、沖縄に旅行に行けなくても沖縄気分が味わえるラインナップが追求されています。
狙い通り、現在のECサイトの利用者の95%が県外在住者で、45%が東京の利用者で構成されています。
潜在顧客に対するSNSを活用したアプローチ
オリオンビールはTwitter、Instagram、Facebook、YouTubeを利用していますが、特にTwitterの運用において成功しています。
オリオンビールのTwitterのフォロワー数は2020年3月時点では5,000人でしたが、2021年11月現在で15万人を超えています。
同社のTwitterが多くのユーザーに支持を得ている最大の要因は、商品の売り込みをするのではなく沖縄に愛着が湧き行きたくなるようなツイートをしている点にあります。
オンライン上では、ユーザーの信頼を獲得するのが難しく、あからさまなセールスに対しては嫌悪感を抱くユーザーも多いです。
オリオンビールのツイートは、見ているだけで沖縄に行きたくなるようなツイートばかりです。
日々のツイートを通して、フォロワーの沖縄への関心が高めることで、結果的にフォロワーがECサイトへ流入し、ひいては購入に繋がっています。
銀行振込専用のECサイトを大刷新 Shopifyで生まれ変わったオリオンビールの挑戦
オリオンビール公式通販 | 沖縄クラフトのお酒や商品をお取り寄せ
Shopify失敗事例
前章ではShopifyの成功事例についてご紹介しましたが、実際にどのようなケースに陥ると失敗してしまうのかイメージがつかない方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、実名制のQ&Aコミュニティサービスで語られたあるアメリカの事業者の失敗例をご紹介します。
彼は人々から需要があるかどうか確信のない商品やサービスの開発に多くのコストをかけすぎたことが失敗の最大の原因であると述べています。
彼は友人が立ち上げた当時まだ珍しかったスナックのサブスクリプションサービスの運営に参加しました。
彼が参加した時には、最初の創設者であるパートナーはすでにシカゴに中規模の開発ショップがあるwebサイトに4万ドルを投資してしまっていました。
このビジネスは回答者にとって、初めての学外ビジネスだったためこの程度のコストがかかるのは仕方のないことだと思っていたと述べています。
本来であれば不必要に派手なWebサイトにコストをかけるのではなく、基本的に無料で開設することができるシンプルなShopifyストアを自分たちで開設するべきでした。
もしそうしていれば、より良い価値提案に注力できたでしょう。
彼自身も、Webサイトにかけたのと同じくらいのお金やエネルギーを商品開発に費やしていれば美味しい商品が完成し、市場に売られていたでしょうと述べています。
結果的に、彼がプロジェクトに参加してから1年後にその会社は廃業することになりました。
また、他の回答者も自身の失敗について語っています。
彼女は友人に触発されてShopifyでペットに関する隙間産業のビジネスをはじめました。
どのように始めればよいのか、どのようにマーケティングするか、ストアのデザイン、出荷・追跡方法などについて知識がなかったため、自力でインターネット上で情報収集を行いながらネットショップの運営を進めていました。
しかし、売上が思うように伸びず、様々なタスクを自動化できる適切なShopifyアプリを選べていなかったことが判明しました。
適切なアプリを選択することで、トラフィックの獲得とマーケティングに時間を費やすことができるようになったと述べています。
これらの事例からわかるように、ECサイトの初心者の方はどこに「時間・お金・人材」のコストを割くべきかの判断が難しく失敗してしまうケースが多いようです。
Shopifyの運営において重要な要素を大きく5つに分けると商品・集客・販売・物流・運営です。
Shopifyストアを開設したばかりの方は、まずは集客と商品の開発に最も注力すべきでしょう。
そして、それ以外の部分は効率化できないか検討しつつ限られたリソースを有効に配分する必要があります。
Did your first shopify shop fail and why?
ECサイト運用のよくある失敗
本章ではECサイト運用のよくある失敗についてご紹介します。
ECサイトがうまくいかず悩んでいる方は当てはまっていないかチェックしてみてください。
これからECサイト運用を始めようと考えている方も以下の点に陥らないように注意してください。
1.見込み客の集客ができていない
ネットショップの売上が伸びない場合にもっとも多い課題は「集客」です。
アマゾンや楽天などのモール型のECサイトに出店する場合は、モールそのものに集客力があるため、一定程度の訪問者数を確保することができます。
楽天の月間利用者数は5000万人を超えています。
一方、Shopifyでの出店は楽天などのモール型と異なり、自ら集客を行いサイト訪問者を増やす必要があります。
具体的な集客方法としては、検索エンジンから集客するためのSEO対策やSNSを活用した集客、有料のインターネット広告の活用などがあります。
集客について具体的に知りたい方は以下の記事も合わせてご覧ください。
2.付加価値が明確でない
競争が激しいEC業界において、自社の製品を買うと顧客にどのようなメリットがあるのかが明確であることは差別化に繋がる非常に重要なポイントです。
次々と新しいブランドができている中で、差別化のポイントが曖昧で、全てのにおいて「普通」では数あるブランドの中から消費者に選んでもらうことはできません。
そこで、「企業が顧客に提供できる価値」、「顧客がある商品を買う理由」であるValue propositionを定義しましょう。
その商品・サービスが「何を根拠」にして「誰」に「どのような価値」を提供しているのかを整理してみてください。
3.リピータ獲得のための取り組みができていない
ECサイトでの売上を安定させるには、新規顧客の獲得だけでなく顧客にリピーターになってもらうことが非常に重要です。
しかし、購入後のケアを怠ってしまい、一度は購入してもらえたものの継続的な購入には至らないケースが多くあります。
何もせずに顧客が戻ってきてくれるということは難しく、リピーター獲得には顧客との信頼関係を育てるための施策は非常に重要です。
リピーター獲得のための施策としては、以下のようなものがあります。
- 新規顧客にアカウント登録を促す
- 定期的なDMの送信
- ポイント制などのロイヤルティプログラムの導入
- カスタマーサポートの強化
どれも導入すれば良いというものではありません。
特にポイント制やクーポン配布などの施策は一度導入後に中止すると顧客の信頼を失う可能性もあります。
自社のターゲット層やコストなどの検討した上で、最適なリピータ獲得施策を検討するようにしましょう。
4.ストアデザインがユーザー視点でない
ECサイトに集客はできているにも関わらず商品が売れていない場合は、顧客目線でのストア構築ができていないことが原因かもしれません。
まず第1に信頼性のあるサイトになっているかという点を確認してみましょう。
オンライン上では、顧客はオフラインよりも情報の信頼性に敏感になります。
特に初めての購入の場合、ユーザーは「本当に信頼できるストアなのか」という不安を抱えています。
せっかく商品に興味を持ってもらえてもここで離脱されてしまっては機会損失になります。
信用できるストアであるということを示すためにも、企業情報やオーナーの連絡先などを掲載するとよいでしょう。
第2に、購入までの導線を明確にする必要があります。
もし購入ページで購入ボタンを押さずにユーザーが離脱している場合は、ECサイトにアクセスしてから購入までの導線をクリアにしましょう。
また、目的の商品がどこにあるのかわからないといった場合もユーザーは諦めてサイトから離れてしまいます。
メインの商品をトップページに掲載したり、商品をカテゴリー別に分類することで、初めて訪れたユーザーでもわかりやすい設計を心がけましょう。
見栄えばかりに気を取られてデザインに凝りすぎていると、ユーザーの使い易さを損ねてしまう可能性があるので注意しましょう。
出典リンク:ネットショップ2店舗を運営して気づいた10の失敗(と回避方法)
Shopifyで成功するためにも
ここまで、Shopifyでの成功事例と失敗について検討してきました。
これらの事例からわかるように、Shopifyはネット上で商品やサービスを販売するツールでしかないということを念頭に置いて運用する必要があります。
「今話題になっているから」や「ShopifyでECサイトを作れば売れそうだから」というShopifyありきでのECサイト構築では失敗してしまいます。
自社の課題やECサイトを開設する目的を明確にして、Shopifyでできること・できないことを理解した上で導入を決定するようにしましょう。
また、Shopifyではブランドのこだわりをどのように機能に落とし込んでユーザーに伝えるかが非常に重要です。
各種SNSも活用しながら、「どのような価値を提供したいのか」という一貫性を持ってアプローチすることで顧客と長期的な信頼関係を築くことが成功への一番の近道になるでしょう。